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【ステンドグラス探訪04】旧川上貞奴邸(文化のみち二葉館)中編

【ステンドグラス探訪】シリーズの第4弾です。


前回に続いて 旧川上貞奴邸のステンドグラスを。


今回は、中編 - 「初夏」。

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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/4.0, ISO1600, Photo by eto

川上貞奴


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川上貞奴のことを、少し掘り下げてみましょう。


彼女は、日本の女優第1号として、明治の新演劇の発展に尽くしました。そして「オッペケペー節」で有名な川上音二郎と結婚後、川上一座の女優として、アメリカ・ヨーロッパでの公演で高い評価を受けます。


演劇界を引退した後は、一時期、この名古屋の邸宅にに居住していました。

川上 貞奴(かわかみ さだやっこ、本名 川上 貞(旧姓:小山)、明治4年7月18日 - 昭和21年(1946年)12月7日)は、戦前の日本の女優。


東京・日本橋の両替商・越後屋の12番目の子供として誕生。生家の没落により、7歳の時に芳町の芸妓置屋「浜田屋」の女将、浜田屋亀吉の養女となる。伝統ある「奴」名をもらい「貞奴」を襲名。芸妓としてお座敷にあがる。


日舞の技芸に秀で、才色兼備の誉れが高かった貞奴は、時の総理伊藤博文や西園寺公望など名立たる元勲から贔屓にされ、名実共に日本一の芸妓となった。








初夏


今回は「初夏」をご紹介します。これは、前回ご紹介した「踊り子」と同じ大広間の西側に設置されています。

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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO2000, Photo by eto

全部で18枚のパネルから成っています。そのうち、2/3の12枚が当時のまま残されていて、6枚は2004年に修復されています。いや、修復と言うか全く新規に作られている、と言った方が正しいですね。当時のガラスを使ったりせず、パネルを丸ごと、今の材料で新しく作っています。


どれが新しく作ったものか、わかりますでしょうか? 分かったら、なかなかのステンドグラス通です(笑)。


描かれているモチーフは、モミジアオイ、シャクナゲ、ユリ、アジサイ、カキツバタ、オモダカ(水生生物の小さな花)、ホテイアオイ、トチノキ、バン(鳥)などです。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO640, Photo by eto

これは当時作られたものです。今では見かけないようなガラスが使われています。クリア・緑・赤の対比が綺麗ですね。


パネルの前に説明書きがあり、そこにはこう書かれています。


「当時の有名なデザイナーであり、福沢桃介の義弟・杉浦非水の原画をもとに作成したもの 宇野沢ステンドグラス製作所の制作」


この建物の竣工が大正9年なので、当時は宇野澤ステンド硝子工場と宇野澤組ステンドグラス製作所の2つが存在していましたが、調べたところ、宇野澤ステンド硝子工場の方で作られたようです。



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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/5.6, ISO2000, Photo by eto

そしてこちらは最近新しく作くられたものです。フラットケイムに全面ハンダが施されています。「踊り子」と同じ松本ステンドグラスさんの制作。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/5.6, ISO1600, Photo by eto

一方で当時のものは主にラウンドケイムが使われています。ハンダは全面ではなく接点のみ。日本の昔の工房でもラウンドが使われていたのですね。


宇野澤ステンドの祖である宇野澤辰雄はドイツでステンドグラスを習得しました。その工房が、ヨーロッパでは現代でもあまり使われていないと聞くラウンドケイムを使って制作していたのは意外ですね。


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新しく作られたものは、踊り子と同様、接点ではケイムを差し込んでいます。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO2500, Photo by eto


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当時のものは、ラウンドなのでケイムの差し込みは物理的に難しいです。されていないと思います。ハンダは大胆な感じ!?の仕上がりになっています。。


この辺りのガラスも独特です。テクスチャだけでアジサイを表現しているんですね。



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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO2500, Photo by eto

新しく作ったもの。ガラスは、踊り子と同じく、バックがサンゴバンのCXでそれ以外はココモが多く使われているようですね。



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今回も全部の詳細画像を載せてみます。サムネイルをクリックすると別窓で拡大して細部を確認できます。






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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO500, Photo by eto

裏側です。ここも、ガラスはフロートグラスとステンドグラスの二重になっています。


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花の部分ですね。裏から見ると、ハンダの仕方がはっきりとわかります。それにしても、100年近く前のパネルにしては素材に劣化が全然ないですね。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO160, Photo by eto

ここ、わかりますでしょうか。ボコッと盛り上がっているところ、ステンドのガラスとケイムが二重になっています。二重にしてハンダ付けしているんです。松本ステンドさんのHPではラファージ工法として紹介されていました。


調べたところ、ティファニーの工房でも働いてたアメリカ人ステンドグラス作家のジョン・ラファージが考案した技法だそうです。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/8.0, ISO100, Photo by eto

現代のステンドグラスでは使われていない技法ですね。見たことがありません。当時はガラスの種類も少なく、テクスチャも弱かったため、こうやってガラスに深みを出したのでしょう。現代は多種多様なガラスがあるので必要がなくなったと推測できます。


それにしても、2枚重ねるとガラスとガラスの間にゴミや水が入ったり、片側が出っ張っていてパネルとして扱い辛かったり、色々と大変そうです・・。



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この辺りはガラスの形がハート型になっています。普通はガラスカッターでは切り辛い形です。当時の人もいろいろ考えてたんですね。


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これは新しく作ったパネルです。


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これもが新しく作ったもの。


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そしてこれが当時のもの。木の幹の線は幅の広いフラットケイムが使われています。使い分けをしていたのですね。



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ほとんどご紹介できていませんが、旧川上貞奴邸はステンドグラス以外も見所があります。大正ロマンの香り漂う、和洋折衷の素敵な建物なんです。






感想・評価

デザインは正直パッとしないですね。部分部分は良い感じのところもあるのですが、全体として調和していないと感じます。


バックがクリアで、青・緑・紫などの寒色系の色をベースにして、赤・ピンクがアクセントになっているのは良いと思います。


しかし、如何せん構図というか配置があまり良くないので、退屈で間延した印象を受けます。あと、ケイムの線もちょっとぎこちないですね。


複数のパネルで、間に木の枠などがあるため、全体感が出しにくく難易度は高いですが、もう少し粗密のバランスと、まとまりがあると良かったですね。


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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/2.0, ISO320, Photo by eto


ステンドのデザインは、必ずしもデザイナーの意図通りになる訳ではありません。デザイナーの画がステンドの下絵になる段階で、程度の差はあるにせよ、違ったものになります。また、依頼者の強い意向に従わざるを得ない場合もあるでしょう。


ですが、そのような裏事情は、出来上がったものを見る側には知る由もないことで、作品の出来だけで評価がされててしまう、というのが肝です。


まあただ、この建物は元々は一個人の邸宅であり、こんな風に作品として人々の目に触れるは、当時関わった人達には誰も想定外していなかったと思いますが。。




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SONY DSC-RX1R, 1/80, f/5.6, ISO1600, Photo by eto





大昔に作ったその当時そのままのパネルと、現代の腕の良い職人が作ったパネルが並ぶと、色々と分かること、考えさせられることがあります。


昔のパネルは、ハンダが雑で汚いです。一方で今のパネルは、ハンダもパテも仕上げの感じも綺麗です。ただ、離れて見れば、そんなところは目に入りません。


つまり、・・・やっぱりデザインが大事なんですね。そしてガラスがその次に大事です。パネルの作りは、良いに越したことはありません。しかし、それはステンドグラスのことを知らない一般の方にはほとんど関係ないことだと思います。


あとは、根本的なことですが、ステンドのデザインは、この「初夏」のような具象的なものより、抽象的なものの方が断然良いですね。中途半端に具象的なものは、どうしても幼稚で素人が描いた絵のようになってしまいます。ガラスの形に制限があることや、ステンドグラスとはこうあるべきだ、という固定観念がそうさせているのかもしれません。


それか、逆に、精一杯ガラスのピースを分けて限界まで具象的にするのも面白いと思います。予算が許せばの話ですが・・。中途半端は面白くないです。




次回は旧川上貞奴邸の最終回、「アルプス」、「竜田川」、4つの行灯をご紹介します。お楽しみに!




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